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歴史年代ゴロ合わせ暗記>アメリカの人工妊娠中絶禁止問題

アメリカの中絶禁止問題


 アメリカでは南部の州を中心に、人工妊娠中絶を規制する法律が次々と制定されています。

 日本では、仮に法律で人工妊娠中絶を禁止する法案が出来たら日本中どこでも人工妊娠中絶は禁止になりますね。しかし、アメリカは違います。各州ごとで法律が違うんです。ですから、どこかの州では、妊娠中絶が問題ないとしても、別の州では違法になってしまうというわけなんです。

 でも、そもそもなぜアメリカはこのように人工妊娠中絶が問題となったのでしょうか?

 時は、さかのぼり1973年。アメリカ南部のテキサス州に住むジェーン・ローンという妊婦が人工妊娠中絶を禁止するとしたテキサス州の法律は女性の権利を侵害するものだとして裁判を起こしました。この時に連邦最高裁が出した決断は「
中絶を女性の権利として認める」というものでした。この判決の理由としては、人工妊娠中絶はアメリカ合衆国憲法のプライバシー権の一環として認められるというものです。この判決によってテキサス州の中絶を禁止する法律は違憲とし、妊娠後期に入る前までなら中絶は認めるという判断となりました。

 それから50年近く経ち、再びこの人工妊娠中絶がアメリカを2分する大きな問題となります。

 1973年に「人工妊娠中絶は女性の権利である」と連邦最高裁が判決した後もテキサス州やオクラホマ州では人工妊娠中絶は禁止されていました。

 テキサス州では、妊娠6週目以降の中絶は禁止です。6週目なんてまだ妊娠しているか気づかないレベルです。気付いた時には、すでに中絶は出来ないというわけです。また、性的暴行による妊娠も中絶は認められません。さらに中絶手術を行った医師、中絶費用を出した家族、妊娠を乗せたタクシーなど中絶を手助けした人は訴訟の対象となります。最高で無期懲役と罰金1万ドルが課せられる可能性があります。

 オクラホマ州では、受精した段階から人工妊娠中絶は禁止です。中絶を実施した場合は最大で10万ドル、または最高で禁錮10年、またはその両方で罰せられるという重罪です。

 また、ミシシッピ州でもテキサス州やオクラホマ州ほどではないにしろ2018年から妊娠15週以降の中絶は原則禁止としていました。ちなみにアメリカでは一般的に23週前後まで妊娠中絶は認められています。

 このミシシッピ州の「妊娠15週目以降の中絶は禁止」という法律に対して裁判が行われ、連邦最高裁が1973年の判決を覆し「「合衆国憲法では中絶の権利を保証していない」つまり、ミシシッピ州の法律は憲法違反ではないという判断を下しました。

 ちょっと、この判決、ややこしいですけどね。1973年の判決では、妊娠中絶はプライバシー権の一環として認めらるとの判断だったのですが、今回の連邦最高裁の判断としては「憲法に中絶禁止なんて一言も書いてないからミシシッピ州の中絶禁止は違憲ではない」と判断したんですね。

 これまで、テキサス州やオクラホマ州では妊娠中絶は禁止としてきましたが、テキサス州やオクラホマ州に住む人は、納得できなければ裁判に訴えれば勝てる勝算が高かったわけです。だって、連邦最高裁で1973年に中絶は憲法で認められている権利だと判断したわけですからね。しかし、このミシシッピ州の中絶禁止法に対する判決によってテキサス州やオクラホマ州は勢いづき、さらに他の州でも次々と人工妊娠中絶を禁止する法律が制定される動きとなっています。

 そもそも、なぜ今更になって連邦最高裁は、人工妊娠中絶禁止を違憲ではないと判断したのでしょうか?

 最高裁は9人の判事で構成されています。

 実は、この人工妊娠中絶問題には政治が大きく係わっています。人工妊娠中絶禁止を支持する人たちの多くが共和党支持者です。前大統領のトランプさんが共和党議員ですね。そして、人工妊娠中絶は女性の権利だと考える人の多くが民主党を支持しています。バイデン大統領が民主党です。

 さて、トランプ前大統領の時代に最高裁の判事に保守派の3名を指名しました。これで現在の判事は保守派6名、リベラル派3名となりました。最高裁判事は終身任期ですので、大統領が変わったからと言ってバイデン大統領が、保守派を辞めさせてリベラル派を指名することは出来ません。自分から引退するか、死亡するまで任期は続きます。この保守に偏った判事の影響で人工妊娠中絶を禁止する法律は違憲ではないという判断が下ったのではないか?とされています。

 バイデン大統領は、民主党ですから中絶禁止は憲法違反だと訴えていますが、共和党支持者の多い州では人工妊娠中絶禁止の動きが強くなっています。

 では、テキサス州やオクラホマ州にて妊娠中絶をする決断をした場合どうすればいいのか?

 妊娠中絶を禁止していない州に行って中絶を受けることが出来ます。ただし!アメリカは広いんです。簡単には行けないんですね。お金も時間も掛かります。企業によっては、中絶に理解を示しており、その交通費などを出してくれる会社もありますが、それはごく一部です。

 キリスト教保守派などによる中絶反対、そして政治的兼ね合い。また、女性の権利などが複雑に絡み合い、この中絶禁止問題に関しては、アメリカで大きな問題となっています。